ジョン・バーニンガム。イギリスを代表する絵本作家のひとりで、大好きな作家さんの一人です。
このかたの作品はいずれもなんとも軽妙、それでいてとても趣深い。中でもわたしは、この人の描く登場人物の表情や仕草は、なんてすばらしいのだといつも思います。 「う、上手い」本屋でも家でも、思わずうなってしまいます。
そのなかで今日は「ひみつだから!」という絵本。 訳は福本友美子さんで、これまたすばらしい日本の言葉への訳し方に敬服するわけです。
お話の見どころの一番はじめはここ。
マリーエレインの家のねこ、マルコムは夜になったらどこかへ出かけます。でも、どこに行くのか、マリーもマリーの家の人も知りません。
そんなある日の夕方、マリーは真っ赤なコートに黄みどりのハットまでかぶって立っているマルコムを見つけるのです。
そのときのマルコムの表情。 これはもう絶妙という以外の言葉が見つかりません。
昼間はソファで寝てばっかりの灰色のねこが、ふと見ると一張羅でめかしこんで、二本足で立ってる。ってこれは普段なかなか起こりがたい場面です。
しかし当の本人、マルコムは 「どうかしました?今日のわたし、なかなか決まってますでしょ」と動揺ひとつない、けろりとした表情。
それどころか、とっても愉しいことが待ち構えている直前の禁じがたい喜びが口元にもただよっているようです。
マルコムは、毎晩、みなにひみつでパーティに出かけているのです。 だけれど、「パーティがあるからおいでよ!」ってマリー・エレインに言えないのです。ひみつだから。
さらには言いたくないのです。とんでもなく愉しいパーティだから。
ぼくだけが知っているひみつ。 誰にも教えられないし、誰にも教えたくないひみつ。
そういうものを持っているときって、やっぱり誰でもこういう顔するんだろうなと思ってしまう。人でなくても、ねこでも何でも。
絵でみせる、絶妙な心の動き。 ジョン=バーニンガムは、それが本当に的確。描きなぐっているみたいな、子どもみたいな絵にもみえるけど、そういう部分はとても丁寧に描ける人なんだと思います。
この方の作品にはこういう何気ない、でもよく見ると趣深いものがあちこちに詰まっています。