
A old man in Czech
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このコラムは、2009年 世界旅行の記録です。
チェコのプラハ中央駅からドイツはミュンヘン中央駅に向かう電車の中、柳田邦男さんのエッセイを読んだ。小麦やもろこし畑が延々広がる車窓の景色は、ヨーロッパ特有のものだ。が、どこの国もたいていよく似た風景であり、数カ国目となるといささか興味も薄くなる。そういうときは、読書に限るのである。
この本はネパールの古本屋で衝動買いした本で、1ヵ月以上もザックのなかに放置されたままであったが、いざ読み進めるとおもしろい。「帰ったら柳田さんの本もっと読んでみよう」と思っていると、おじいちゃまが一人、小さな田舎町の駅から乗り込んできた。
ヨーロッパの鉄道はこういった具合にボックス席になっている場合が多い。 おじいちゃん(以下ちぇこじい)は、「ここ空いてる?」と、窓際に座るわたしの斜め向かいの席を指さし、顔をかわいらしく傾けた。
「もちろん」というチェコ語がわからないので、ニコッと笑って合図した。 これだけのことだが、ボックス席内に一瞬温かい空気が流れる。どこの誰とも知らない人と、たまたま同じボックスに座って、ちょっと会話したり、笑いあったりする。それだけでも「あ~旅ってたのしい」と思えるわたしは、よほどのあっぱれ旅好きである。
ちぇこじいは、チェックのネルシャツを着て、ちょっと若い帽子をかぶっていた。その格好も素敵だったので、わたしは「ちらっと観察」をはじめた。これはわたし、特に好きな人を見るときにしてしまう癖だ。といっても、みなさん同じだと思うが。
直視は恥ずかしいので、ちらっと見るフリをするんだが、実はとても興味津々に見るのである。
ちぇこじいは、眼鏡を遠くしたり近くしたりしながら、新聞を読んでいる。そして、時折窓の外を見るようだが実は珍しい東洋人(わたし)をちらっと見ていたりする。
あはは、ちぇこじいもわたしをちらっと観察しているらしい。 この日、というかヨーロッパでは食費を最大限抑えているわたしは、昼ごはんがピーナッツであった。
ピーナッツだよ、ピーナッツ。安いんだぜぃ~1ユーロしないんだぜぃ~。
12時を過ぎ、グルグル鳴り始めたので、ピーナツを頬張り始めると、それに触発されたか、ちぇこじいもザックから弁当箱を取り出した。
各辺20cmくらいの白い立方体の弁当箱。日本ではあまり見かけない大ぶりな箱だ。
ちぇこじいは、そのボックスからまず、袋入りのパンを出すと横の空き席に置いた。そして次に何か「ゴリ、パリパリ」という音を立て始めた。
何かと思うとゆでたまご。
ちぇこじいは、ゆでたまごを2つ、塩なしで食べていた。 そして先ほどのパン(恐らく朝時間がなく、そのまま袋ごとランチボックスに入れたと思われる)をかじり、そのあとフルーツ(バナナとプルーン)どれを食べようか迷って、結局食べずにしまっていた。
ここでわたしは妄想に浸る。
ちぇこじい。
ランチボックスの内容は、単品そのままじゃないか! 笑まさに男の作った(というか詰め込んだ)弁当だね。ひょっとしたらおばあちゃん(奥さん)に先立たれて、料理とかうまくできなくて、遠出するときはとりあえずそのへんにあったものを詰め込んできたのかね。
そういうことかね。
ちぇこじい。
哀愁たっぷりやないか~~~(T▲T)
目の前で、ぽりぽりピーナツを頬張っている東洋人の女が、まさか自分について妄想しているとは知るまい、ちぇこじいよ。 ちぇこじいはそのあと1時間くらいして、どっかの駅で降りていった。降り際に「バイ」とにこっとしてくれた笑顔が忘れられん。